2001年に公開されたアメリカ映画である本作は、1度の鑑賞では全貌を理解できない作りになっており非常に難解な映画として知られいる。

公開当時の興行は成功とは言い難いものであったが、ビデオやDVDで発売が開始されると、そのカルト的な人気から発売当初のヒットチャートは1位を記録した。

そんな一筋縄ではいかない本作を攻略するためのヒントを本稿で紹介していきたい。

※本作を鑑賞済みの方に向けたネタバレありの記述になるため注意。

1. 作品紹介

制作国:アメリカ
言語:英語
上映時間:113分
監督・脚本:リチャード・ケリー
製作総指揮:ドリュー・バリモア
出演者:ジェイク・ジレンホール
    ジェナ・マローン
    ドリュー・バリモア
    パトリック・スウェイジ

2. あらすじ

「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒」
銀色のウサギがドニーだけに告げる、世界の終焉から始まるリバースムービー

舞台は1988年 アメリカ マサチューセッツ州。
ドニー・ダーコは軽度の精神障害を抱える高校生。カウンセリングと投薬治療を受けながらも、優秀な姉とダンスコンテストで優勝を狙う活発な妹、模範的な両親の4人で暮らしている。

ある日、ドニーは夢の中でフランクと名乗る銀色のウサギに導かれ「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒」と告げられる。

翌朝、近くのゴルフ場で目を覚ましたドニーはまた夢遊病が発症したものと思いながら帰路につく。

すると、家の周りには警察や野次馬たちがひしめき合う状況になっており、なんとドニーの家に「飛行機のエンジン」が墜落したというのだ。

それから幾度となく現れるフランク、謎の美少女の転校生、間接的に示唆されるタイムトラベル理論。

「世界の終わり」とは何なのか?

「世界の終わり」にドニーが見たものとは・・・。

3. 「裏設定」

劇中、ほぼ説明描写がなく終始何が起きているのかが分からない不親切設計な映画であり非常に難解である本作。

それもそのはずで本作には、劇中ではほとんど語られないし描かれない、言わば制作サイドしか知り得ない「裏設定」が存在しており、その設定を知り得た上で鑑賞しないと絶対に全貌を理解できない仕様となっている。

その裏設定とは「未来人」と「タイムトラベル」の存在である。

おそらく「?」となっている読者がほとんどであろうが筆者も同じ状態になったのでご安心を。

本作を紐解く上で知っておかなければいけないキーワードがいくつか存在するので順を追って紹介していく。

まずは先述した「未来人」と「タイムトラベル」である。

そう、この映画はSF映画の部類に属するのだ。これが大前提となる。
本作がSF映画であることを頭に入れた上で下記のキーワードを読み進めて欲しい。

ちなみに、これから紹介する単語や意味は劇中「死神オババ」と呼ばれる元高校教員であるロバータ・スパロウ著の『タイムトラベルの哲学』という本からの引用である。

3-a:プライマリー・ユニバース(主宇宙)

これは我々が生きているこの世界(宇宙)そのものを指す言葉。
時間の流れは一方的で、早まったり滞ったりはしない次元。

3-b:タンジェント・ユニバース(接宇宙)

プライマリー・ユニバースにて何かしらの「事故」が起きた時に
一時的に生成される、いわばパラレルワールドのような世界。
しかし接宇宙は非常に不安定な存在であり数週間で消滅してしまう。

3-c:アーティファクト(オブジェクト)

主宇宙から接宇宙に間違って送られてしまった物質。タイムトラベルの始まりとなる重要な要素。金属製の物質にのみ該当する。

3-d:リビング・レシーバー(生ける受信者)

アーティファクトを主宇宙に戻す役割を与えられた人物。
接宇宙が誕生した時に選定される。また、この人物は夢や幻覚幻聴といった
形で通常の人間にはなし得ない「力」を与えられる。

3-e:マニピュレイテッド・デッド(操られる死者)

接宇宙で死んでしまった人物は操られる死者となり、上記の生ける受信者に
指示を与え、アーティファクトを主宇宙に戻すサポートをする。

ここまでの説明で上記のキーワードがそれぞれ何(誰)に当てはまるのか分かった人も多いだろう。

参考までに記述すると、

アーティファクト:飛行機のエンジン
リビング・レシーバー:ドニー・ダーコ
マニピュレイテッド・デッド:フランク(銀色のウサギ)

という配役になる。

4. 起承転結

上記の配役を決定したのは劇中に登場することはない「未来人」たちである。

「飛行機のエンジン」が主宇宙から接宇宙に移行してしまう、という「トラブル」が起き、これを主宇宙に戻さなければ接宇宙は主宇宙を道連れにして消滅してしまう。

これが「世界の終わり」の真相である。

この事態を回避するべく「未来人」たちはドニーやフランクに役割を与え、タイムトラベルを繰り返させることにより主宇宙を救おうとするのが劇中に描かれる一連の出来事なのだ。

おそらくドニーは何度も同じ時間軸を「やり直している」のだと考えられる。本作「ドニー・ダーコ」が描くのは、アーティファクトを主宇宙に送り返す事に成功した最後の時間軸のお話と解釈することが出来る。

では早速、本作を起承転結の順を追って解説していこう。

起:銀色のウサギの登場

とある夜、ドニーは謎の声に導かれ銀色のウサギ・フランクに出会う。
フランクから「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒」と告げられるドニー。
翌朝、近所のゴルフ場で目を覚まし帰路につく。

承:飛行機のエンジン墜落

帰宅すると、ドニーの住む家に飛行機のエンジンが墜落していた。
このエンジンは元は主宇宙のものであり、冒頭のシーンでドニーの姉が「They don’t know where it came from(彼らもどこから落ちてきたか知らない)」と言っている。彼らとは連邦航空局のこと。アメリカの飛行機の運航全てを管理している機関すら分からないということが、このエンジンが未来(主宇宙)からやってきたものだと推理できる。

転:フランクの指示

翌日、ドニーのクラスに美少女転校生・グレッチェンがやってくる。
その夜、フランクの指示によってドニーは真夜中の学校に訪れ、斧で排水管を破壊し学校を水浸しにし、その斧を校門に配置されている学校のモニュメントである犬の銅像に突き刺した。この時点で、銅という非常に硬い物質に斧を突き刺すことが普通の高校生に出来るかどうか考えてみて欲しい。おそらくは無理である。フランクに導かれた時点でドニーはリビング・レシーバーとして「力」を与えられており、これはその力によって成された事件だったのだ。その証拠に、銅像の前の地面には「They made me do it(奴らが やらせた)」と書かれている。奴らとは未来人のことであると思われる。

またその翌日。水浸しになったことで学校が休みになり、それがきっかけとなってドニーとグレッチェンは交際を始める。

ドニーと友人たちが郊外の空き地に集まっていると、近くの家に住む老婆であるロバータ・スパロウ(通称:死神オババ)が登場する。彼女は家の前にある郵便ポストを確認すると家に戻り、また直ぐにポストを確認しに行くという奇行を繰り返していた。
また、ドニーは死神オババから「生き物は皆 孤独に死ぬ」と告げられる。

翌日、ドニーは高校の教師からロバータ・スパロウ著の「タイムトラベルの哲学」という本を手渡される。また、タイムトラベルには「入り口」と「飛行可能な金属製の物体」が必要だとも聞かされる。

その翌日、学校には巷で有名な自己啓発の講師ジム・カニングハムが講演に訪れていた。
カニングハムに対し大勢の前で反発的な態度を取るドニー。

また別の日、グレッチェンと映画を見に来ていたドニーはフランクに再会する。
フランクにウサギのフードを脱ぐように迫るドニー。明かされたその顔は左目から血を流す青年だった。フランクから「焼き尽くせ」と命じられたドニーはそのままカニングハムの邸宅に火を放つ。その頃、学校ではコンテストが行われており、ドニーの妹はダンスコンテストにて優勝する。

翌日、焼け跡になったカニングハムの邸宅の中から隠し部屋を見つけた消防隊が、その部屋から大量の児童ポルノを発見する。この件に対し起訴されたカニングハムを救うため彼に妄信的になっていた高校の教師が釈放運動を起こすと息巻いている。彼女はドニーの妹のダンスチームの引率教師であるが、運動で忙しくなるとのことで数日後にLAで行われるダンスコンテストの引率をドニーの母に頼む。その夜、ドニーは死神オババに向けて手紙を書く。

数日後、母と妹がLAに向け飛行機に乗って飛び立つ。姉の進学祝いのためドニー宅で盛大なハロウィンパーティが催される。グレッチェンと結ばれるドニーだったが、いつの日か高校の国語教師から告げられた「地下室の扉」という言葉を思い出し何かを悟ったドニーはグレッチェンと友人たちと共に死神オババの家へと向かう。彼女の家の地下室の扉を見つけたドニーたちであったが、同じく彼女の家に忍び込んでいた暴君たちに襲撃されてしまう。そこへ突如赤い車が現れ、あろうことか投げ出されたグレッチェンを轢き殺してしまう。
車から現れたのはウサギの着ぐるみをした姉のボーイフレンド・フランクであった。
怒りに駆られたドニーは、父の部屋から持ってきていた銃でフランクの左目を打ち抜き、殺してしまう。

その後、グレッチェンの亡骸を抱え、車で郊外にて一夜を過ごすドニー。
翌朝、家の方を見ると彼の家の上には不思議な雲が取り巻き、大きな穴のような形を作っている。おそらくはタイムトラベルの入り口となりエンジンが落下する兆しである。

結:世界の終わり

死神オババに向けた手紙が読まれ、自宅のベッドに横たわり高笑いするドニー。
その後、飛行機のエンジンが墜落しドニーはこの世を去る。

翌朝、泣き叫ぶ父と姉を尻目に、どこか寝ぼけたような顔でタバコを吸う母親が映し出される。家の前を通り過ぎたグレッチェンが近所に住む子供に何が起きたかを尋ねる。

「酷い事故だ」
「名前は?」
「ドニー・ダーコだ」
「彼の友達?」
「違うわ」

その時、ドニーの母と目が合うグレッチェンは互いに手を振り合い、映画は幕を閉じる。

5. 感想と解説

まず、起承転に当たるのは接宇宙でのタイムトラベルが繰り返される世界での話。
未来人たちはドニーに、グレッチェンや家族との幸せな時間を過ごさせると共に、何もしなければ母と妹が飛行機事故で死んでしまいグレッチェンも事故で亡くす世界を体験させる。
その世界に絶望したドニーが自らの死(エンジン墜落による事故死)を選択することで世界を主宇宙に返すことで世界の終わりを回避する。というのが未来人の書いたシナリオだったのだ。

そして最後に映し出される結のシーンだけが主宇宙での話。

主宇宙ではドニーはグレッチェンにも出会っていないし、カニングハムの邸宅に放火もしていないので母と妹が飛行機に乗ることもない。

しかし、接宇宙が存在していた事実はあるため、無意識ながらもタイムトラベルを経験した母親は「時間酔い」とも言うべき症状に陥っており一時的に寝ぼけたような状態になっていたのである。グレッチェンもドニーの母とは接宇宙で会っているので、どこか他人事とは思えず手を振ったのだ。

またエンドロールに入る際に、フランク、カニングハムやカウンセラーなど、ドニーと関わりを持った者たちの姿が映し出される。
カニングハムは(児童ポルノが暴かれたことに)泣き崩れ、フランクは左目に違和感を覚え目を触る姿が描かれる。これも接宇宙を体験した者たちの一種の後遺症だと考えられる。

何度も繰り返しこの映画を見てきたのだが、死神オババとドニーがやり取りした手紙についてだけは、手紙を出したタイミングを含め謎が残ってしまっている。
これはディレクターズカットのディスクにて描かれているのだと思うが、残念な事に日本での発売は未定であり、真相を知りたければ海外版を取り寄せるしか今の所 答え合わせの方法がないのである。

ここまで難解映画「ドニー・ダーコ」についての解説と考察を書き連ねてきたが、最後までお読みいただけた読者の方は是非もう一度本稿と見比べながら鑑賞していただけたら幸いだ。

その度に新たな発見と謎が湧き上がり、さらなる好奇心とともにこの映画の虜の一人になっていくことだろう。