米映画『ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー』(以下、『ハン・ソロ』)は2018年に公開された「スターウォーズ正史」のスピン・オフです。
愛機ミレニアム・ファルコン号を駆って銀河を飛び回る一匹狼の運び屋(密輸も)・ソロ船長。その名を轟かせるきっかけとなったエピソードをほろ苦い青春映画のように描いている秀作なんですよ。
ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)たちのようにフォースを遣うわけじゃないけれど、その分人間臭い面を若き日のハン・ソロ(オールデン・エアエンライク)の生き方を通して見てみようじゃないですか!
プロローグ:自由のない惑星コレリアからの脱出
盗んだスピーダーで脱走を!
出自は定かではありませんが、ハン青年は惑星コレリアで“自由のない生活”を強いられていました。「いつか自由な大宇宙で!」と思いを募らせるハンに脱出のチャンスが訪れます。
その頃のハンは惑星の盟主のレディ・プレキシマに命じられるままに、「コソ泥のような」仕事でなんとか生計を立てていました。
そんな窃盗を繰り返す日常のなかで、密かに盗んでおいたスピーダー(『エピソード4』でルークが乗っていた、小型クラフトよりは若干大きなタイプの宇宙艇)で、プレキシマの勢力圏からの脱走を計ったのです。
巡回の目をくぐって、ハンは幼馴染みで恋人のキーラ(エミリア・クラーク)と、スピーダーを飛ばします。
目指したのは宇宙駅で、ここはプレキシマの領土外でした。そして、帝国軍の支配下でもありますが、基本的には「自由港」の形態を取っていて惑星間便の乗降は自由です。
ここでのプレキシマの領地から宇宙駅までのカー・チェイスならぬクラフト・チェイスは迫力が満点!
タイヤのように道路との接地面があるわけではないのに、カウンターを当ててコーナーを曲がったり、片輪走行(=この場合は“半身走法”)を決めたりと、理屈を度外視してのシーンは愛嬌いっぱいです。
こうしたプレキシマ配下のスティンガー(ハンのスピーダーよりも、さらに大型のクラフト)の追走を振り切ったハンとキーラでしたが、改札口寸前でキーラだけが捕まってしまいました。
「必ず迎えに来るから!」
ハンは叫びますが、この手の約束は古今東西果たされた試しがないのは観客にとっても周知の事実ですよね。それは今作も例外ではありません。
「予定調和なのに、感情移入してしまう」というのは、ハンとキーラの別離に“感情移入”してしまう程の演技だったからかも知れませんね。
ただ、『この別れがラストシーンに重要な意味を含んでいる』とだけ言っておきましょう…。
ほかに、この冒頭部で秀でていたのは、ここまでの脱走劇だけでもデティールに凝れば作品1本が撮れてしまいそうな勢いがあるという点です。
まるで『007サンダーボール作戦』(1965年、主演/ショーン・コネリー)で、タイトルバックが出る前の導入部分での一仕事(作戦名も明かされていない、ボンドが秘密兵器で脱出する場面のみ)に値すると思われる程の“前フリ”みたいに感じられるんですね。
それくらいの躍動感があるシーンだという事です。
帝国軍に入隊して脱出
こうしてハンだけが構内に入り込めたのですが、チケットを用意していたわけではありませんでした。当然、計画もキーラが捕まった時点で変更する必要もあります。
それに構内では我が物顔ではないにしても、プレキシマの追手は駅舎にはチラホラと。そこで、窮地のハンが目にしたのが「帝国軍へ入ろう」という、新兵募集のポスターです。
窮地にいたハンは、選択する余地もなく入隊を決めて同じく希望者の並ぶカウンターの列に入りました。
そこで係官に名を尋ねられて「ハン」としか答えようがない新兵候補に係官が「ソロ(=独り)か…」と言い、勝手に苗字をソロにしたというエピソードを描いています。
かくして「ハン・ソロ」は誕生したのでした。
この下りは、『ゴッドファーザーPart2』(1975年、主演/アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ)からの“拝借”ですよね。
イタリアからアメリカへ逃げてきたヴィトー少年が苗字と出身を答え間違えてヴィトー・コルレオーネと名付けられたのを彷彿させてくれます(のちにコルレオーネ村にビジネスと復讐のために帰郷)。
こうして新生「ハン・ソロ」は、無限の銀河へと第1歩を踏み出したのでした。
人生の師・ベケットとの出会い
泥沼の戦地にてベケットと
脱走から3年。戦闘機パイロットを志願したものの、ソロは消耗部隊の歩兵としてある星の局地戦で泥水の中を這いつくばる生活を送っていました。
帝国軍の勢力圏が飛躍的に広がる直前、まだダースベイダーが軍を統括する前なので、常勝とは言えない状態だったのです。
その混戦のドサクサに紛れて、偽将校として帝国軍に潜り込んでいたベケット(ウディ・ハレルソン)でした。
彼のタフな戦場での振る舞いや狡猾さに触れたソロは、この先も「同行させてくれ!」と申し出ますが、却下されます。
それどころか「アイツは脱走兵だぞ」と、帝国軍人に密告されて地下牢の穴倉に入れられてしまいました。
終生の相棒・チューイとも戦地で出会う!
ベケットに密告されて、地下穴倉に入れられたソロに待っていた処罰は「ウーキーの餌」です。
そのウーキー(チュー・バッカ。通称「チューイ」)というのが、ソロが『エピソード7』で実子に敗れて絶命するまで行動をとものしていたチュー・バッカ(通称「チューイ」)でした。
ソロは穴倉でチューイとの意思疎通に成功して、逆に地下牢からの脱出に成功します。
かくして、この名もなき戦線の名もなき作戦中で、ソロは今後の生き方に大きく影響を与えるベネットと、終生の友(相棒)・チューイと出会ったのでした。
あの囚われの身から生きて目の前に現れたソロに驚いたベネットでしたが、その「しぶとさ」を見込んで一味入りを認めたのは言うに及ばないでしょう。
ベケットの相棒(=愛人)のヴァル(タンディ・ニュートン)は反対したものの、操縦士のリオの賛成もあって無事に帝国から盗んだ飛行艇でコアクシウムを盗む旅路に加わったのです。
この旅立ちのシーンは、メンバーの駒を揃えつつも同時にハンの成長も描くというロン・ハワード監督の手腕が光ります。
そして、単に「自由を追い求める」だけの青年から、一人前のアウトローへの成長が芽生えてきたソロに、ますます期待が高まっていくという監督の手腕が冴えた場面でもありましたね!
その後は、大列車強盗を企てたものの、寸前で失敗。ヴァルとリオの“憤死”をソロは経験します。
このミッションを通して、ソロは非常さと冷静さの重要性を学んだと言えるでしょう。
併せて、ベケットからアウトローとしての“生き方”を見せてもらった、重要なシーンだったのではないかと思います。
スターウォーズ世界では、
オビ・ワン⇒アナキン・スカイウォーカー(のちのダースベイダー)⇒ルークという本筋のジェダイの系譜があります。
それと、もうひとつの別線として、
ベネット⇒ハン・ソロ、というアウトローの系譜がここに成り立っていたのが分かりますよね。
概して、別線の方が面白い場合もエンターテイメントにはよくある事です。
本作も、その魅力が十分に生かされていると考えて間違いないです。
ファルコン号の伝説、「ケッセルラン」シーン登場!
ファルコン号に乗り込んでハイパー・ジャンプを
ベケットとチューイと出会ったソロでしたが、この列車強奪のクライアントであるドライデン・ボス(ポール・ベタニ―)に詫びを入れて善後策を“お伺い”を立てに、彼のヨット型巨大宇宙船を訪れました。
そして、そこには驚いた事に生き別れになったキーラが!
キーラはドライデンの参謀格のビジネスパートナーになっていたのでした。
キーラと宇宙駅で生き別れになったと前述しましたが、まさかドライデン・ボス側の重要人物となって再会するとは!!
ドライデンは「とにかくコアクシウムを手に入れろ」と指図、ベネットとソロの命に代えさせようとします。
ベネットの要求に応えるには、ソロの提案する「精製前のコアクシウムを惑星ケッセルで奪って、近場(ホントはそれほど近くない)のサバリーンで精製すれば問題はない」という事になりました。
ドライデンも、“それしか方法がない”と悟ったようです。
かくして、ベネット一行はキーラをお目付け兼案内役にして、惑星ケッセルへと盗りに行く事となりました。
旧交を温める間(筆者注:拍子抜けする程の、あっけない再会シーン)もなく、ベケット、ソロ、チューイはキーラの手引きでランド・カルリジアン(ドナルド・グローヴァー)と引き合わされます。
コアクシウムを手に入れる方法は見つかったものの、その手段にはどうしても欠かせないツールがありました。それが、“足の速い船”です。
コアクシウム強奪にはどうしても必要だったのです。そのため、ランドのミレニアム・ファルコン号を使うしか手立てがなかったのですね。
かくして、ソロは別の意味で「終生の相棒」=ファルコン号と出会ったのでした。
しかし、トライデントから身を守るためには、この航海を無事に終えなければなりません。それだけではなく、星図標には隕石や星屑がルート上に散らばっていて上手くハイパー・ジャンプ(日本で言うところの「ワープ」)できる道が、あるようには見えないのです。
そこを度胸1発、チューイとソロの腕で乗り越えて見事に乗り切ったのでした。
この航海こそ、『エピソード4』でオビ・ワンに雇われる交渉時に「速いのか?」と聞かれたソロが、
「バカ言っちゃいけねぇ、ケッセルランを12パーセクで飛んだ船だぜ!」
と、息巻いた伝説の韋駄天走りだったのです。ついでに記すと「帝国軍なんぞ、ぶっちぎりだ!!」とも、ソロは自慢げでした。
この走りについては、ソロは相当な思い入れがあるようで、『エピソード7』で、レイがソロとファルコン号を見て「この船が“ケッセルランを14パーセクで飛んだ”伝説のファルコン号?」と感嘆して叫ぶと、
「12パーセクだ!!」
ソロはむきになって即座に訂正していました。
それだけ、ファルコン号はソロにとっては自慢の船だったのです。ついに、その元となる航海がこの作品で明らかになったのです。
ちなみにパーセクは本来、距離の単位。それを製作総指揮・監督のジョージ・ルーカスが速度と勘違いしたところを好意的なマニアが、”好意的に補足”で、「12パーセクに舵を取って切り抜けた」と解釈してくれて、定説となっています。
とにかくピンとこない数値ですが、ハイパー・ジャンプで短距離・短時間でぶっ飛んだという事を表しているのです。
このシーンを見られただけでも、筆者は「この作品を観た価値がある」と思いましたよ。
エピローグ:キーラとの本当の別離
ついでに言うと、このケッセルラン中に「なんだかイイ予感がしてきた」とソロが呟いていました。
このセリフは『エピソード4』でデス・スターのダストシュートにレイラ姫(キャリー・フィッシャー)とルーク、チューイと揃って閉じ込められて以来、随所にでてくる「イヤな予感がしてきた」の掛詞になっていて、そのシーンにも感動モノです!
この辺は、脚本が『エピソード5、6、7』と同じローレンス・ガスタンなので伏線の張り具合が「イイ感じ」に絶妙です。
この「ケッセルラン」でソロは一人前になり、ベケットとの対決、トライデンとの決着を経て、ソロは一匹狼の密輸屋として銀河へ旅立っていったのです。
その時、キーラとの再びの別離が描かれるのですが惑星コレリアでの別れと違いってソロ、キーラともに成長の跡がうかがえて隔世の感が見て取れました。
お互いに「いっぱしのワル」への変貌が、逆に観劇後の爽快感を生む事に成功しています。『アメリカン・グラフィティ』(1073年、監督/ジョージ・ルーカス)や『卒業白書』(1983年、主演/トム・クルーズ)を観終わったあとのような感覚を筆者は彷彿させられました。
このように今作を、単なる『スターウォーズ』のスピン・オフとしての位置づけや、一般に論じられた「西部劇的な面白さ」だけではなく、ひとりの青年が旅立って行く“青春映画”として、筆者は捉えています!