①あらすじ

インドの一般家庭で専業主婦として暮らすシャシ。
インドの定番スナック、ラドゥーを売って生活する彼女だったが、ビジネスマンの夫、サティーシュと子供達から英語ができないことを馬鹿にされ、いつも自分の英語にコンプレックスを抱いていた。

ある日ニューヨークに住む彼女の姉が結婚式を挙げることになり、手伝いに来てほしいと頼みの連絡が入る。サティーシュは仕事があり、子供達は学校。ロクに英語を話せない上に旅行すらしたことがないシャシは、単独での渡米を余儀なくされる。
添乗員や空港職員との会話もままならない彼女だったが、隣に座った紳士に助けられる。

「最初はみんな怖いものさ。何事も初めての経験というのは人生で1度しかないのだから楽しみなさい。」別れ際にそう勇気付けられ、空港で姉たちと合流する。

そびえ立つ摩天楼に光輝くネオン、端から端まで高級ブランドのショーウィンドー。ニューヨークの街は何もかもがシャシにとって夢のような世界だったが、英語の話せないシャシにとってニューヨークでの生活は困難を極めた。
意地悪なカフェの女性店員に動揺して他の客とぶつかってしまったシャシはその場から逃げ出してしまう。

公園のベンチでうなだれ、涙を流すシャシに声をかけたのは先ほどのカフェでシャイの後ろに並んでいたフランス人男性、ローランだった。ローランはシャシが先ほどのカフェで受け取り損ねたコーヒーを届けに駆けつけてくれたのだ。

彼は拙いカタコトの英語で「あのカフェはよくない。店員は親切ではない。」と優しく声をかけ、去っていった。
ローランが去った後、偶然にも通りかかったバスの車体の「4週間で英語を学べる」という広告がシャシの目に留まる。

シャシを見つけ駆け寄った姉は広告を一瞥し、「誰が4週間で英語が話せるっていうの。冗談でしょ。」とまともにとり合わなかったが、シャシはこの広告を忘れられずにいた。

姉や家族には内緒で英会話教室に通うことを決心するシャシ。
広告に記されていた番号に電話をかけると、なんと今日からスタートするのだという。

急な開始、高額なレッスン料にためらうシャシだったが、始めるのは今しかないと覚悟を決めて教室へと向かう。
道を確かめながらなんとかたどり着いた教室では、英語を学ぼうと様々な国から個性豊かな生徒たちが集まっていた。その中には公園でシャシに声をかけたローランの姿も。

ローランは、教室に通ううちに少しずつ自信を取り戻していくシャシにいつしか思いを寄せるようになり、ついに彼女に自らの気持ちを打ち明ける。
ローランのアプローチに戸惑いを隠せずにいたシャシだったが、2人で街を歩いている様子を目撃されてしまい、英会話教室に通っていることが姪のラーダにばれてしまう。

この時シャシが英会話教室に通っていることを知った彼女は、陰から応援しようとする。
あと1週間でレッスンも終わりというころ、結婚式直前でニューヨークに来るはずだった家族がサプライズで一足先に家でシャシを待っていた。家族を目の前にシャシは母親としての立場を思い返し、ローランを拒むようになる。
時を同じくして講師のデヴィッド先生は生徒達に最後の日に5分間のスピーチの課題を命じたが、家族がいるのではクラスには通えず、テストは結婚式の日と被ってしまう。

一時は英会話教室に通うことを諦めるとラーダに伝えるシャシだったが、彼女を応援したいラーダの計らいや共に学んできたクラスメイトの後押しもあり、午前中に行われる最終試験を受けて午後の結婚式に出る決意をする。
ところが、息子サガルのいたずらで結婚式のために作ったラドゥを地面に落としてしまい、1から作りなおすため、結局シャシはテストを受けることができなかった。

突然にも午後の結婚式にテストを終えた英会話教室の生徒達や先生がやってきた。ラーダが密かに招待していたのだ。
式の中でスピーチを依頼されるシャシ。サティーシュは妻が英語ができないからと依頼を断ろうとするが、シャシは依頼を受けて英語でのスピーチをやり遂げ、自分に自信を持てるようになった、とローランに感謝を述べる。

②シャシの名言

この作品最大の見所とも言える、結婚式でのシャシのスピーチのシーン。
「素晴らしい今日の日の結婚式。これは最も特別な友情です。2人の対等な者の間の友情です。
人生とは長い旅。ミラは時々自分が劣っていると感じるでしょうし、ケビンもまた同じようにミラに引け目を感じることがあるかもしれません。

互いに助け合うことで2人は互いに対等な気持ちになれます。それは素晴らしいことなのです。

結婚し、夫婦となった2人でも相手の気持ちがわからないことがあります。
どうしたらいいのでしょう?結婚生活の終わりを意味しているのでしょうか?

いいえ、ちがいます。自分を助けるべき時間なのです。誰も自分以上に自分のことを助けてくれる人はいません。
もしそれができれば、あなた達は互いに対等な者なんだという気持ちとしてあなた自身に返ってくるでしょう。2人の友情は返ってくるのです。あなた達の人生は素晴らしいものになるでしょう。

ミラ、ケビン、とても忙しくなるかもしれませんが、娘、息子と家族を持つということはこの大きな世界の中に、自分だけの小さな世界を持つということなのです。あなたをよい気持ちにしてくれますよ。

家族とは決してあなたを批判したり、陥れたり、劣等感を抱かせるような存在ではありません。
家族とはあなたの短所を欠点を決して笑わない、唯一の存在なのです。あなた達に愛と尊敬を与えてくれる居場所なのです。2人が幸せでありますように。ありがとう。」

家族に愛と尊敬を求めたシャシの思いが強く現れたシーンである。
男尊女卑の色の強いインド社会では、夫が無神経なことを言っては妻を傷つける、というのは日常茶飯事だという。

差別階級が残り、女性の地位が社会的に高くないインド社会に対して、女性監督、ガウリ・シンデーからのメッセージをシャシに代弁させたのかもしれない。

③劇中のあのお菓子は?

シャシの得意料理で、近所の人々に売って回ることで生計を立てていた作品中の丸いお団子のようなお菓子はインドの伝統あるお菓子で、ラドゥーと呼ばれる。ヒンドゥ教の神、ガネーシャの大好物としても知られており、神聖なお菓子としてお供えされることが多いようである。

ひよこ豆を材料として作られており、その半分近くは砂糖でできているため、非常に甘みが強いんだとか。そのため、蒸し暑く乾燥したインドではエネルギー源として非常に重宝される。
シャシのラドゥ作りをサティーシュが軽視するような描写が見られるが、彼女の作るラドゥーはとても大きな役割を担っていることがわかりる。彼女自身もそれをよく理解しているため、デヴィッド先生に起業家だと称されたことをきっかけに自信を持ち始めるシーンがはっきりと描かれている。

④まとめ

シャシは新しいことに挑戦することで自分自身の、女性としての輝きや幸せを見つけ出すことに成功した。
結婚が真にもつ意味、家族がいかに素晴らしいものであるか、という家族への愛。

新しい世界に一歩踏み出す勇気、そして自分に自信を持って物事をやり遂げる、という自分への愛。

”English Vinglish” の原題の通り、英語を習得していく過程にばかり注目されがちだが、「英語を話すことがいかに大切か」ではなく、「英語を使ったその先に何を求めるのか」ということにスポットをあてた作品だろう。この映画における英語とはまさしくツールであり、真に求める物へと近付く手段やきっかけの1つだった。

英語をきっかけに、たくさんのことを再確認させてくれる良作だったと思う。