本記事はネタバレとなっていますのでご注意ください。
暗い世界観の意味
もやもや、そして後味の悪さ
見たあとすっきりしない、もやもやしたものが残る映画というのは数多くあります。いわゆる「後味が悪い」作品ですね。この映画もその中のひとつではありますが、後味が悪いというよりは薄気味悪いと感じる方が多いのではないでしょうか。
後味が悪いと感じる要因は多々あります。そもそもルイスの仕事内容があまり気分が良いとは言えない、しかしニュースを見る我々の生活とは密接な関係の仕事です。ゆえに完全に目を逸らすわけにもいかず、見ている私たちにもやもやとしたものを与えているのでしょう。
夜の世界を動くサイコパス
ルイスが動くのは基本的に夜の時間です。なので作中の画面は暗いことが多く、ルイスが構えるカメラや事故車のライトが照明代わりという場面が多々あります。それが妙に生々しく、私たちの注目をライトの先へと向けさせるのです。特に後半、リックの最期のシーンは印象的でした。理不尽や怒り、そしてルイスへの恐怖といったあらゆる感情が集約されたあのシーンは、夜の独特な静けさや未知の空気感とあいまって、まばたきすら許してくれません。
ルイスの仕事の意味するものとは?
パパラッチという仕事
衝撃的なニュースというのは私たちの興味関心を引き、日常の話題にのぼります。それが悲惨であればあるほど私たちは心を痛め、記憶にも残るものです。ただ、テレビ画面を隔てたニュースというのは、実際に目にしたものよりは現実味を薄くさせるというのも事実。まさに対岸の火事といった感じでしょうか。
それを撮影するのがパパラッチという仕事です。
サイコパスが、カメラを通して見る世界
実は現場を撮影するパパラッチも、現実味をあまり感じていないようなんです。例えば野生のライオンを撮影するテレビクルーがいたとします。ライオンを撮るパパラッチ以外はライオンを自分の目で見ているわけですから、当然恐怖を感じます。でも撮影しているパパラッチは、カメラのレンズを通してライオンを見ているせいか、周囲のスタッフが感じているような恐怖は抱いていないそうなんです。むしろ、もっと近くで迫力ある画を撮りたくて近づいていくとか。
もちろん個人差はありますし、パパラッチ全員がそうとは限りません。それでも、このような逸話があるというぐらい、パパラッチという仕事は特殊だということです。
ルイスや周囲の人々の存在の意味は?
サイコパスに対比される、リックという重要な存在
もしこの映画の主要人物がルイスだけだったら、ルイスのサイコパス性というのはここまで際立たなかったでしょう。比較対象となるリックがいたからこそ、ルイスの危うさといったものが強調されているように見えます。さらに言えばリックが平凡で気弱な青年というのが重要なポイントです。
ショッキングな映像を撮るパパラッチという、私たちの生活からはかけ離れた世界の作品で、リックというのは限りなく私たちに近い存在です。彼がいるからこそ私たちはこの作品に近づくことができ、そしてルイスがどんな人物かを知ることができるのです。
登場するキャラクターのもつ意味とは?
お金がなく、定職についていないリック。気弱そうですが一般常識を持ち合わせている彼から見ると、初対面のルイスには「何かすごく大きなことをしそうな人」「堅実に夢を追いかけている人」という印象を持ったかもしれません。ルイスは口が上手いですからね。しかし一緒に仕事をしてみると、ルイスの傍若無人さやサイコパス性が明るみなってきます。
初対面はいい人そうに見えたのに、実際付き合ってみるととんでもない人だった、というのは私たちもよく経験することです。重要なのは、その後その人とどう付き合っていくかということなのですが、選択肢はいくつかあります。相手とバッサリ縁を切る人、徐々に疎遠になっていく人、付き合いを切ることができずにそのまま相手との関係を続けていく人など、対応は人それぞれでしょう。
果たしてリックはどうしたのかというと……作品をご覧になった皆さんはもうおわかりですね。リックはルイスに振り回されながら仕事を続けました。そして最後までルイスに騙され続けたのです。
この二人の人間関係は、私たちの生活に無関係ではありません。生きていくうえで人間関係というのは大なり小なり発生します。ひとつひとつの人間関係をどう繋げてどう解消していくか、考えさせられる作品です。
ルイスとニーナの関係解説
作品の冒頭ではお金がなく、盗品を売って生活費を稼いでいたルイスですが、映画の中盤ではお金を手に入れ始め、女性との関係も持ち始めます。人生の波がわかりやすく見てとれます。ニーナとの関係は、ルイスにとってはステータスのひとつだったかもしれません。ニーナにとってはいい迷惑どころか脅されて始まった関係のため、ルイスを恐れている部分はあるでしょう。しかしルイスにとってはニーナが自分に恐れを抱いていることすら快感のひとつだと言えるのです。自分の能力を誇示したがるルイスにとって、自分が畏怖されているというのは心地よいものでしょう。
しかし仕事場ではニーナは気丈に振る舞います。ときには、ルイスのように無茶苦茶なやり方を通すこともあります。それが彼女にとっていいことなのか悪いことなのか、私たちには決めることができません。私はニーナは可哀想な人だと思うのですが、仕事で成功しているのは事実ですから、見方によってはニーナが不幸だ可哀想だとは言い切れないでしょう。
ルイスは正気か、それともサイコパスか?
・ルイスという人間
はたから見れば、ルイスはサイコパスとしか思えません。仕事のために現場を捏造し、競合相手を殺し、事件の証拠を消し、そして仕事仲間が死ぬように仕向ける。普通であればどう考えても正気とは思えません。しかし何をもって正気とするかは、その時々の基準によって変化します。「一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄になる」という名言を残したのはチャップリンですが、犯罪者と英雄の基準なんてそんなものです。
サイコパスの正義
彼に正義があるかは定かではありませんが、彼の中に一本の芯が通っていることは明らかです。それは「より良い仕事をすること」。お金がほしいわけでも恋人がほしいわけでも、名声がほしいわけでもありません。もちろん、必要ではなくても、手にいられるチャンスがあればルイスはしっかりとそのチャンスを掴みます。
ルイスは自分のことを仕事ができる人間だと、最初から皆にアピールしていました。本当にその通りです。より良い仕事をするためには手段を選ばない。それがルイス・ブルームという人間であり、彼の正義なのです。なので彼の立場に立って考えてみると、彼の行動には何の不思議もサイコパス性もなく、彼がただ自分の信念のために行動していたことがわかります。
まとめと、全体の意味の解説
後味の悪い作品であることは間違いありません。ですが、パパラッチという世界を通して見る、夜の空気や人々の欲望、決して他人事ではない人間関係といったものは興味深くもあります。怖いもの見たさとでも言えばしっくりくるでしょうか。その興味こそがルイスを突き動かすものであり、私たちが映画を見る理由でもあります。
この映画を見たあとに感じるぞわぞわとした恐怖は、きっと作品のせいだけではないでしょう。いつか私たちに降りかかるかもしれない恐怖、こじれた人間関係の結末、そういったものを身近に感じられる力が、このナイトクローラーという作品にはあります。
参考になるサイト
ナイトクローラーについてもっと考えを深めたい方は、以下のサイトをご覧ください。