『ダイ・ハード』(1988年)の公開から32年。主人公のジョン・マクレーン(ブルース・ウィルス)は頭髪は寂しくなり、奥方とは離婚しました。2人の子供との折り合いも、決して良くはありません(娘のルーシーとは、前作『ダイ・ハード4.0』(2007年)で雪解けムード)。そんな悲哀感が漂うマクレーンですが、彼のタフネスさは健在です!
この作品『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(2013年)での「世界一運の悪い男」は、米国内にとどまらず愛する息子・ジャック(ジェイ・コートニー)を連れ戻すためにロシアへ出向きました。そこでまたしても、波乱と陰謀に“偶然”巻き込まれるのですが、今度は、ロシアを舞台に大暴れをします。
果たして息子のジャックは、ロシアで何をしているのか?
マクレーンは、無事にジャックを救い出せるのか?
今作もハラハラドキドキ&痛快アクションで、魅了してくれますよ!!
『ダイ・ハード』シリーズをより楽しむための予備知識
『ダイ・ハード』の主人公はニューヨーク市警刑事(『2』では、L.A市警。細かい部署は作品により異なる)のジョン・マクレーンです。
彼の家族構成は、元妻(長らく別居状態だったが(『4』では遂に離婚)のホリー(ボニー・ベデリア)、長女・ルーシー(メアリー・エリザベス・ウインステッド)の4人家族でした。
マクレーンは犯罪都市・ニューヨークで忙しく犯罪者を追う毎日で、家族とのコミュニケーションを上手く取れないでいました。
一方、妻のホリーはナカトミビルで働くキャリア・ウーマン(『ダイ・ハード』参照)で、ロスアンゼルスにある本社に勤務。マクレーンは単身N.Yに残って別居が続きましたが、その生活も“離婚”でピリオドです。
当然、家庭を顧みない父親に対して子供たちの反感も膨れ上がっていくのです。
その中で、『4.0』で泥まみれでボロボロになりながらも、必死に市民を守る姿を見てルーシーの見る目が変わりました。
そして、(現時点での)最新作では、今度は娘の次は息子の窮地を救うために「不死身の男(DieHardの訳のうちのひとつ)」が、モスクワへ向かいます!
「強い父親像」を描く家族映画のようですが、そこはあくまでも『ダイ・ハード』です。アクションもありますのでご安心を。
このような「家庭の事情」を踏まえると、いっそう面白く観る事ができます。
『ダイ・ハード/ラスト・デイ』のあらすじと見どころ①
-モスクワ市街でのカー・チェイス-
CIAのエージェントとして潜入中だった!
しばらくの間、音信不通だった息子のジャックが、ロシアで殺人事件を起こして拘留中という情報を同僚から知らされたマクレーン。
この事件がきっかけに、シリーズ初の海外遠征版がスタートします。
ソ連は崩壊しましたが、かえって諜報戦線ではカオスのさなかにある国で殺人犯扱いの息子を救うなどは“普通”ならば無理というもの。
ところが、数々の修羅場を潜り抜けてきたマクレーンならば「ひょっとして」という期待もあり、娘のルーシーはロシアへ飛び立つ父親を空港へ送って行ったのでした。
その到着日は、奇しくもジャックの公判日です。空港から裁判所へ向かう道は、乗り込んだタクシー運転手いわく「いつも混んでるんだよ」との事。
あと2ブロックで着く手前で「ここから歩いて行った方がいいよ」と言われます。で、料金をサービスしてくれた運転手に見送られて裁判所に入ってみると、ジャックが判決を受けるところだったのです。
ただ、この逮捕劇・裁判劇はCIAによって仕組まれたミッションでした。
ジャックは同日に裁判をする、ユーリ・コマロフ(セバスチャン・コッホ)に接触、救出する事が任務だったのです。どういう事かというと、ジャックはCIAのエージェントだったのです。
そして、このミッションのために3年間も家族への連絡も絶っていたのです。
消息不明のわけは、これでした。
裁判に話しを戻すと、元大物政治家のコマロフは、同じ大物政治家のチャガーリン(セルゲイ・コルスニコフ)と組んで濃縮ウランで兵器を密造・密売していました。
そして保身のために、チャガーリンはコマロフひとりに罪をきせて投獄してしまいます。口封じをしたのです。
ところがコマロフも、チャーガーリンとは「同じ穴のムジナ」で、自分に保険をかけていました。犯罪の一部始終を記したファイルを隠し持っていたのでした。
CIAは、そのファイルと引き換えに海外脱出をコマロフに持ち掛けて作戦は終了…するはずでした。しかし、真相が暴かれると政治生命どころか重要犯罪人の烙印を押されてしまうチャガーリンが、コマロフを拉致しようとします。
CIAにファイルが渡る前に処理しようと、裁判所を爆撃してコマロフの身柄を押さえていまおうと乗り込んできました。
すると、そこに「間が悪い」というか「運悪く」というか、マクレーンも裁判所に到着です!
「ジャック、ナニしてんだ!」
成り行きの全く見えていないマクレーンは叫びます。
ジャックはジャックで、3年間かけて進めてきたミッションが水泡に帰してしまい頭の中が真っ白に!
そんな中でもジャックはコマロフを連れて、合流地点まで突っ走りました。
もともと、ジャックを連れ戻しにきたマクレーンは追いかけ、チャガーリンの組織も同時にコマロフ奪回に向けて、モスクワの街中を追いかけて行くのでした。
モスクワ市街のド迫力カー・チェイス!
チャガーリンの手の者から逃げるべく、ジャックはコマロフをともなって、逃走に入りました。マクレーンはわけが分からずに、
「ジャック! ナニしてるんだ。アメリカへ帰ろう!!」
と、場の雰囲気も読まずに叫んでいます。
このハプニングのおかげで、合流時間から6分も遅れてジャックはCIA本隊のピックアップが受けられなくなりました。
筆者としては、ここまでが序章で、このあとのカー・チェイスシーンが「一番の見せ場」と捉えています。
・逃げるジャック(とコマロフ)
・追うチャガーリンの組織
・結果的にジャックを援護する形で最後尾から追い上げるマクレーン
こんな感じです。
筆者はモスクワ市街のロードマップに疎いので、細かくは分かりません。それでも、ロシア到着後にマクレーンが使ったタクシー運転手の「いつも渋滞している」というセリフが道路状況を表していて、興味深いです。
つまり、渋滞の中をカー・チェイスするにはクルマをジャンプさせたり、わざとスライドさせて隙間を作らなければならない事にほかならないのです。
この辺の手法は『ダイ・ハード3』(1995年)のニューヨークの街中を、マクレーンが即席相方のゼウスとともに引っ張り回される時に、すでに披露済み。
また最終的にマクレーンがベンツのトラック(ベンツ社は高級車だけではなく、バスやトラックの大型車も性能が折り紙付き)で追走するシーンは、『ダイ・ハード4.0』(2007年)のトレーラー・トラックでの追撃シーンを踏襲したモノと分かります。
これら「どこかで見たようなシーン」であっても、“何度見ても面白い”のが、このシリーズの特徴でもあると筆者は思っています。
『ブリット』(1968年。主演/スティーブ・マックイーン)のような、坂道の多いサンフランシスコの街をマスタングGTで追いつめて行くマックイーンの姿もいいですが、今作のようにB.ウィルスの泥臭いカー・チェイスにも手に汗握ってしまいます。
今作のカー・スタントも“キレて”いて大迫力です!
結果的にマクレーンの援護によって、ジャックとコマロフを無事に救出。まだ中盤でありながら、筆者にとっては「一番いいシーン」は観終わった形になったのでした。
『ダイ・ハード/ラスト・デイ』のあらすじと見どころ②
-チェルノブイリでの最終決戦―
コマロフ父娘の再会
チャガーリンの追手を振り切ったマクレーン親子にはクリアしなければいけない大問題が残されていました。
それは、ファイルを渡すのには「娘と一緒でないとファイルはやれない」という条件があったのです。
加えて、ファイルはモスクワにはなく別の場所に隠してあると言います。
コマロフは娘に電話して、国外脱出のために合流しようと、
「父さんと母さんが、初めてダンスをした場所に来てくれ」
と、娘のイリーナ(ユーリア・スニギル)を閉鎖されたホテルのダンスホールに呼び出しました。
そのホール内に隠した“ファイルの在り処”の地図を取り出したコマロフでしたが、マクレーンは“ある違和感”を…。
空港から乗ったタクシー運転手の「いつも渋滞している」という言葉が、引っかかったのでした。その割りには、イリーナが現れるのが早過ぎる、と。
その疑問を口にすると同時に、チャガーリンもダンスホールに。なんと、イリーアはチャガーリンと繋がっていて、実父のコマロフを欺いたのです。
そうしてマクレーン親子は、拘束されたまま放置。チャガーリンとイリーアはコマロフにファイルを隠した場所に案内させたのでした。
チェルノブイリでの画策、二転三転して…
ホテル最上階のダンスホールからのダイブで、なんとか脱出したマクレーン親子。
ここでも「お決まりのシーン」、ダストボックスへの落下で一命を取り留めたばかりか、そのままチャガ―リンたちを追走に移ります。
この“くだり”も、さんざん見尽くしてきた手法なのに、B.ウィルスがやると観ていて元気が湧いてくるのは筆者だけではないはずです!
新兵器も何もなく、特殊訓練を受けたわけでもない設定の「一介の警官」がやるからこそ、面白いんですよね。
そうして追って行くわけですが、行く先は地図からチェルノブイリと想像できました。
そこはフィクションではなく、現実に大原発事故を起こした地です。まだ、放射能が残っていて住民は避難したままの危険な地域。そこに乗り込むのですから、親子の覚悟たるや並大抵ではないでしょう。
そうした決死の覚悟をしている同時刻、チェルノブイリのウラン貯蔵施設ではファイルを取り出すために、事故から閉じられたままの扉が開けられました。
その部屋にはチャガーリン、イリーア、コマロフの3人が入ります。そして、チャガーリンが、ファイルを差し出すようにコマロフに命令したところ逆に撃たれてしまいました。
そこにはファイルなど無く(はじめから存在していなかった)、多大な量の濃縮ウランが保管されていたのでした。
その10億ユーロ(約1200億円)分の濃縮ウランを使って、かつてはチャガーリンと組んで荒稼ぎしたように、今度は娘と密売しようとコマロフは計画していたのです。
イリーアは、はじめからチャガーリンに寝返っていたのではなく、コマロフの企てに「乗って」いたのです。
イリーアを駒とした、二転三転のトリックというわけです。その分かり易さ(!?)もまた、ご愛敬ですね。
かくして、防護服ナシで乗り込んだマクレーン親子は、いつものように肉体の限界を感じさせないほどのタフさでコマロフ一味を壊滅させます。
ここではジャックの奮闘も目を見張るものがあって、さすがはCIA局員というよりも「ジョン・マクレーンJr.」といったところでした。
最後の貯蔵施設爆発シーンからの脱出では、冷却水のプール(実は雨水貯蔵プールという設定)に着水して九死に一生を得ました。
ホテルからのダストボックスへのダイブが伏線になっています。憎い演出でしたね。
こうして濃縮ウランは守られて、マクレーン親子も無事に救出されました。
米国に専用機で帰ると、空港には娘のルーシーが出迎えに来ていたところでエンドです。
まとめに代えて
本文中にも触れましたが、マクレーンはいわゆる普通の警官(刑事)という設定がいいですね。それも、別居から離婚という“よくあるエピソード”の中であがく「ダメ親父」というのも、またいいです。
それが、娘、息子と少しづつ分かり合えてきています。
筆者的には、派手なアクションシーンも好きですが、こうした「普通の親父ぶり」「家族」を描いた作品も好きなんですよね。
なお、次作は日本を舞台にする予定もあったようですが東日本震災で頓挫。香港ロケ説等、いろいろとウワサや憶測が飛びましたが、どうやら20代の頃と60代になったマクレーンの姿が交錯するストーリーになるようです。
60代を演じるのは、当然、B.ウィルス。ヤング・マクレーンのシーンでは、元妻・ホリーとの馴れ初めも明かされるのでしょうか? そちらも楽しみです!