ディズニー/ピクサーの『トイ・ストーリー3』制作スタッフが手掛けた『リメンバー・ミー』。
2018年3月16日に公開され、瞬く間に世界中で大ヒットを飛ばしました。
第90回米アカデミー賞では長編アニメーション賞・主題歌賞のW受賞、また、第75回ゴールデン・グローブ賞ではアニメーション部門の作品賞、さらに第45回アニー賞では最多11部門での受賞など、映画界からも高く評価された作品です。

『リメンバー・ミー』の舞台はメキシコ。
古くから続いてきたお祭り「死者の日」のお話です。
この記事では、その「死者の日」をピクサーがどんなふうに描いているのか、また、登場人物の関係性や見どころなどをピックアップしてお伝えしていきます。

2020年2月21日(金)には、ついに金曜ロードショーにて本編ノーカットでの放送が決まった『リメンバー・ミー』。
2年前映画館で楽しんだ方も、地上波放送前にメキシコ文化の背景やストーリーの復習をしてご覧になるとまた違った楽しみがあるかもしれませんよ。

 ※ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

あらすじ&感想(1)メキシコ版お盆!?「死者の日」はどんなお祭り?

ミゲルが行った「死者の日」の過ごし方

メキシコではもともと骸骨を死者のモチーフとして考え、飾ったりする身近なものでした。
それが、死者の貴婦人・カトリーナに捧げる祝祭へと変化していきました。
羽飾りや花をいっぱいつけた大きな帽子は、作品の中でミゲルが行った「死者の国」の女性骸骨もおおくかぶっていたりと象徴的に扱われているようです。

今では、カトリックの諸聖人の日の11月1日とその翌日2日に祝祭を行い地域によっては10月31日に前夜祭を行うところもあるようです。

骸骨だらけのパレード

映画「007スペクター」の冒頭シーンでも使われた、死者の日のパレード。
大きな山車が出たり楽器隊やサンバ隊も出るなど、まさに国一番のお祭り。

パレードに参加する人はみんなカトリーナメイクや骸骨の被り物で盛り上げます。
作品にはパレードの描写は出てきませんが、冒頭の描写からも 道端に露店が出ていたり、楽器を演奏するおじさんがいたり、カラフルなガーランドや花が至る所に飾られていたりと町全体で死者の祭りを盛り上げている、ウキウキした感じを伝える描写があふれています。

街にあふれるマリーゴールド

映画の中で重要なアイテムになっているマリーゴールドの花。
家の中でも街を歩いていても、この時期のメキシコはマリーゴールドであふれかえり、マリーゴールド売りの人々が盛大に露店を広げて売るほどの力の入れ具合。

マリーゴールドは、原産はメキシコ。
そして、太陽の象徴でもあります。
また、死者が通る道の目印でもあるのです。

日本のお盆にきゅうりとナスで馬を作るようなものでしょうか。
映画の中でも、死者の国と人間界をつなぐ橋がオレンジでしたよね。
あれはマリーゴールドで出来た橋。
あのオレンジ色のマリーゴールドの橋を渡らないと里帰りできないのです。

ミゲルのギターと、カラフルで陽気な墓地

ミゲルがギターを弾く墓地のシーンも色鮮やかでとてもきれいなシーンの一つですよね。
映画ではマリーゴールドの他に、たくさんのキャンドルや人形やお菓子などが供え置かれていました。

また、夜になると、キャンドルに火をともし、ライトアップして 昼とはまた違った雰囲気で描かれていました。
色遣いやデラクルスのお墓の配置が、ミゲルが入っていった死者の国と似たように描かれているのにも気づきましたか?

作品では、死者の国にいってしまうシーンだったので意図的に不穏で謎めいた雰囲気で描かれていましたが、実際には夜も陽気にラテン音楽を流したり、家族みんなで墓石を囲んでおしゃべりしたりと昼間と変わらない雰囲気でお祭りを楽しんでいるようです。

きれいな飾りつけをした墓石の前で記念撮影をするのもお決まり。
夜のお墓でもにぎやかに楽しんでいるところは、ラテンならでは。
日本のお盆との最大の違いかもしれませんね。

アルタールとオフレンダ

「アルタール」は祭壇、「オフレンダ」はアルタールのお供え物を意味します。
映画の中のアルタールでも描かれている通り、オフレンダはマリーゴールドのほかに塩や食べ物、故人の気に入っていたものやキャンドルや十字架、そして写真などで埋め尽くします。

特に写真は、映画の重要なファクターにもなっていましたね。
メキシコの過程では、このアルタールを1年間かけて準備をし、11月1日を迎えるまでの期間で念入りに掃除や装飾をします。
ちなみに、初日の11月1日は子供の魂が、次の2日は大人の魂が人間界に戻るとされています。

なのでオフレンダも、初日はおかしやおもちゃが多く次の日にはメスカルなどの酒に代わっていくのもこの祭りの面白い特徴です。

ミゲルが迷い込む「死者の国」

物語の中で、ミゲルは夜の墓地でデラクレスの遺品であるギターをかき鳴らしそれがきっかけで人間には見えなくなってしまいます(ちなみに犬には見えていますね)。

亡くなって人間界に戻ってきていた親族と一緒にマリーゴールドの橋を渡るとネオンや高層ビルできらめく死者の国へ。
このあたりも、死を明るく楽しむラテンの感覚が伝わってくるシーンになっていますね。

死者の国に入り、ミゲルが見つける聖なる獣・アレブリヘもメキシコの有名な工芸品の一つ。
ちなみに、作品中ではひいひいおばあちゃんのパピータというかっこいいアレブリヘがクライマックスでも大活躍しますね。

あらすじ&感想(2)ミゲルの冒険!ひいひいおじいちゃんをめぐって

ミゲルを助けたヘクターの想い

生きているときにも家に帰りたくても帰れず、そのまま殺されてしまい祭壇に写真も飾られず結局帰れずじまいのヘクター。
ミゲルを助けたのも、途中までは自分の写真を飾りたかっただけだったかもしれませんがだんだんミゲル自身と打ち解けあい、最後には心を通い合わせていきます。

トイ・ストーリーやモンスターズ・インクでも描かれた、境遇や性格の違う二人が力を合わせて困難に立ち向かうストーリーは、ピクサーの十八番。
自分の好きな音楽を禁止する家族から飛び出したミゲルと死後、家族・子孫にも誤解されたままだったけれどもココにあいたいと思い続けたヘクター。

同じ時間を生きていなくても家族の絆を感じる二人のあたたかい関係性が大ヒットを呼んだ一つの要因でもある気がします。

ミゲルたちが悪に立ち向かう!そして一族の絆

最後は死後の親族全員を巻き込み、悪に立ち向かうミゲルたちですがここでも個々のキャラクターが生き生きと活躍します。
特に、気が強いけど誰よりもヘクターを理解していた妻のイメルダが印象的ですね。
セリフの端々に、ヘクターへの信頼を感じます。

歌詞の意味と「もうひとつの死」とは?

ヘクターが光りはじめ「もうひとつの死」を迎えそうになるシーンは何度見ても胸が張り裂けそうになりますね。
「もうひとつの死」、死者の国の死は、自分を覚えてくれている人がひとりもいなくなってしまうこと。

ミゲルが死者の国で親族に会えていたのは、アルタールに写真を飾り、家族全員が心の中でいつも亡くなった家族を思っていたから。
「忘れなければ、心の中でずっと生き続ける」というセリフの中に込められた想いは死という別れがあったとしてもずっと心の中で一緒にいようという、メキシコの「死者の日」のテーマにも通じているように思います。
 「リメンバー・ミー」の歌詞の「また抱きしめるまで」というヘクターの想いもココが死者の国にいったのちにきっとかなえられていることだと思います。

原タイトル『COCO』に寄せられた想い

日本では『リメンバー・ミー』という邦画タイトルですが、原タイトルは『COCO』。
いわずもがな、ミゲルのひいおばあちゃん、そしてヘクターの最愛の娘の名前です。

ココは冒頭では脇役のように描かれ、物語の本筋とは関係ないキャラクターのように錯覚してしまいますがミゲルの誤解が解けたのも、ヘクターがハッピーエンドを迎えられたのも、すべてはココが何年たってもしわくちゃのおばあちゃんになってもずっとヘクターを覚えていたから。

『COCO』この言葉だけで、ストーリーのカギやテーマである家族愛を表現しているピクサーは流石ですよね。
個人的には邦画タイトルよりもこちらのほうが気に入っています。

いかがでしたか?

大ヒットの裏には、ストーリー展開の面白さや、ピクサーお得意の凸凹バディ、そして
なによりも家族愛を描いたその作品のあたたかさは、国や人種関係なく伝わるものだったからではないでしょうか。

ピクサー映画は、隠れミッキーや謎の番号、これまでの作品を随所に忍ばせる遊び心でもおなじみ。
「リメンバー・ミー」でも、冒頭の街角でウッディとバズが隠れていますよ!

さまざまな仕掛けや素晴らしいストーリーを繰り返し楽しんでくださいね!