ダンサー・イン・ザ・ダーク

この映画は、アイスランド出身の歌手「Bjork」主演の、2000年カンヌ国際映画祭で最高賞とされる
「パルム・ドール」を受賞した、当時大変話題となった作品です。

この映画なのですが、正直なところ胸を張って観て頂きたいとお勧めできる作品ではありません。

この作品を観ていると、「神はこの世に存在しないのか」と、救いようのない事象に胸が締め付けられる思いになるからです。

詳細な理由は後述します。

しかしこの映画には、現在でも著名人が自身の好きな映画として本作の名を挙げるなど、人を強烈に
惹き付ける魅力や仕掛けが作中に散りばめられています。

今回はこの作品のストーリーを私の考察も交えつつお話していきます。

あらすじ

映画の舞台はアメリカ。NYなどの都会ではなく、カントリータウンのような田舎町が舞台です。

作中にも自然の豊かな風景が随所に出てきます。
Bjork演じる主人公のセルマは、息子のジーンと二人暮らし。

セルマは工場での労働や内職をして女手一つでジーンを養育していました。

しかし、セルマのある持病で、この物語は最悪の結末を迎えます。
セルマはある事がきっかけで殺人犯となり、罪を負ってしまいます。

そして、彼女の息子を想う気持ちから、自らの命をも捨てる選択をするのです。

1.【セルマの持病】

セルマはミュージカルで歌を歌うことや、タップダンスを踊ることが大好きな、朗らかな女性です。
しかし、その腕前は決してよいものとは言えず、たびたび指揮者から指導を受けてしまいます。

あることが原因で,,,,

セルマは、息子のジーンを養うため、工場での仕事や内職をして働いています。
しかし、ここでもプレス機にセットする鉄の板を誤って2枚セットしそうになり、プレス機を壊しかけるなど、すこし危なっかしいところもあります。
これはなにもセルマの効率が悪いということではなく、セルマの持病が関係していました。

目の病気です。

セルマは生まれながらにしての目の病気で、その視力はだんだんと失われていき、そう遠くないうちに失明する運命しあったのです。

しかも最悪なことに、息子のジーンも目の病気を受け継いでいました。

ジーンも同じく手術をしなければ失明してしまうため、セルマは自分よりもジーンを優先し、ジーンの手術に必要な高額な費用を一生懸命貯めていました。

映画の序盤はまだセルマの目はかろうじて見えていましたが、少しストーリーが進んだころ、セルマが仕事からの帰りに線路を歩いて帰る際、枕木を蹴りながら確認して歩いているシーンがあります。

セルマは「見えない」とは言っていませんが、おそらくこの頃よりセルマは失明していたと思われます。

このセルマの目の病気と、息子のジーンの手術費が、全ての元凶でした。

2.【職を失ったセルマ】

セルマは、もっとお金を貯めるために工場の日勤だけでなく、夜勤も掛け持ちします。
周囲に「昼よりも暗く周りが見えにくいのに、仕事は本当に大丈夫か」と心配をされながらも、

セルマは気にせずに作業に打ち込んでいました。
セルマは以前より、仕事中にミュージカルのことを考えたり、台本を覚えたりしていました。

そのたびに注意を受けていましたが、今回も作業中にミュージカルのことを考えて、そのせいで機械を壊してしまうミスをしてしまいます。

結果これが原因でセルマはその工場をクビになってしまいます。
こうしてセルマは職を失ってしまいました。

3.【悪夢の始まり】

セルマとかねてより交流のあった警察官のビル。ビルは奥さんと2人暮らしで、目の不自由なセルマのことをいつも気遣い、近くのトレーラーハウスを住居として貸すなど、セルマとジーンにとても協力的でした。
このビルが今後のセルマの人生を大きく変えてしまうこととなります。

ビルはある日、セルマに「お金に困っている。必ず返すから助けてくれないか」と相談を持ち掛けるようになります。

しかしこれは大切なジーンの手術費用。セルマはこれを断りました。
その後もビルはセルマに「もうどうしようもない。自殺するしかないかな」などとセルマの同情を誘い、お金の援助を持ち掛けますが、セルマの気持ちは変わらず。
ある日、セルマの住むトレーラーハウスに訪れたビル。

この時点でセルマは目が見えないため、コップに指を入れて水を注ぎ、加減を確かめます。
これをビルは見ており、セルマの目が見えなくなっている事に気が付きます。

もうお察しでしょうか,,,。

4.【お金を返して】

ビルはセルマに別れを告げ、トレーラーハウスを出た,,,

フリをしました。

セルマはビルが帰ったと思い込み、工場で受け取った最後の給料を隠し戸にしまっておいた貯金箱に入れました。
この瞬間をビルは目に焼き付け、セルマに気づかれないようにその場を後にしました。

後日、ビルの家を訪れたセルマ。そこでなぜかビルの奥さんが激昂しています。

「あなた、ビルを誘惑したわね。」

セルマは何のことを言ってるのか理解できません。

知らない。と答えても、妻は聴く耳を持ちません。
埒が明かないため、セルマは2階にいるビルに話を聞きにいきます。

ビル曰く、妻にトレーラーハウスを出てくるところを見られた。なのでそういう嘘をついた。
との事。

ビルはここで銀行に向かうと言い出しますが、セルマはビルに対してこう言います。
「それは私のお金ね。手術費だから返してほしいの。」
そう。目の見えないセルマですが、彼の悪事には気づいていたのです。

5.【母さんは仕方なくやっただけ】

セルマは卓上に置いてあったお金を取り返し、その場を後にしようとします。
しかし、セルマに対しビルは、銃口を向けます。

「今君に銃を向けている。」

セルマはそれを信じません。しかし、ビルがセルマの体に直接銃を突きつけ、セルマは恐怖に
震え始めます。

ビルは妻を呼び、「セルマが私のお金を奪った、警察を呼んでほしい」と言います。
妻が警察を呼びに1階に降りたあと、ビルは、

「今金を返せば逃がしてやる」
と言いますが、セルマは拒否。

ここで、誤ってビルの足に銃を発砲してしまいます。
崩れ落ちるビル。

「殺せ。殺してくれ。友達なら、それが慈悲だと思って,,。」

なぜこんなことを,,, セルマはビルからお金を取り戻そうとしますが、ビルはお金を放そうとしません。

「俺を殺して持っていけ。早く撃て」

セルマは嗚咽を漏らしながら、ビルを撃ちます。

金属の箱で頭を数回打撃し、ビルは死にました。

その後も目を覆いながら、泣きながら数発ビルに銃を撃ち込み、セルマはその場に泣き崩れます。

6【判決】

この件でミュージカルのレッスン中にセルマは逮捕されます。
検察はセルマにビルを殺した理由や、お金をためてどうしようとしていたのかを問います。

しかしセルマは本当のことを言わず、

「お金はチェコにいる私の父に送るために貯めた。名前は、オルドリッチ・ノヴィ。」

オルドリッチ・ノヴィとは、ミュージカルの世界では著名なタップダンサーです。
セルマは、工場でも自分の父親はオルドリッチ・ノヴィだという嘘をついていました。

ジーンの病気を隠すため。

ここで法廷にオルドリッチ・ノヴィ本人が登場し、彼女との関係を否定。

嘘が発覚してしまいました。
ここでセルマに言い渡された判決は「死刑」。

セルマは刑務所に収監されることとなりました。

7.【セルマの決断】

死刑判決が下ったセルマですが、ここで一筋の希望が見えます。

セルマの弁護士が変わり、以前の弁護士では弁明できなかったことを新たに申し立てるというのです。
セルマの隠していたジーンへの手術費用を貯めていたことが分かれば、減刑される可能性があります。

弁護士はセルマに再審申し立てのサインをするよう促しますが、ここでセルマはこの弁護費用に高額な報酬が必要なことを知ります。

それはセルマが用意できる、あのジーンの手術代すべて,,,,

セルマは、この話を断りました。

「私のことはどうでもいい。ジーンは手術をしないと失明してしまう。あの子には目が必要なの。」
一度再審を断ると、もう死刑が確定します。

つまり、ここでセルマの死刑は確定しました。

8.【愛するジーンへ】

セルマの死刑が確定し、その日を迎えました。
セルマの独房に警官たちが迎えにやってきました。

セルマと同じように男の子の息子がいる女性警官は、セルマのよき理解者でした。
恐怖で立てずに、その場に崩れ落ちるセルマを女性警官はこうなだめます。

「音を奏でましょう。一緒に立って。」

女性警官はセルマと一緒に足でタップダンスのリズムをとって、セルマをリラックスさせました。
ゆっくりと処刑台まで歩いていきます。

処刑台までの107歩。

カウントダウンが近づき、107歩目での処刑台。

ここでセルマは黒い布を被されますが、息ができないことや暗いことに対して恐怖を覚え泣き叫びます。

ここでも女性警官が慰め、セルマはすでに目が見えない事を考慮して、イレギュラーの対応で被せを取りました。

ここで駆け付けたセルマの仕事仲間である女性が、ジーンの手術成功を伝えます。
セルマに寄り添い、ジーンがかけていた眼鏡をセルマに握らせたところで、警官に引きはがされてしまいました。

最後にセルマは,「最後から2番目の歌」と称して、ジーンへのメッセージを歌にして歌い、その歌の途中で刑は執行されました。

床に転がり落ちる眼鏡。

物語はここで終わりです。

最後にスクリーンにメッセージが。

「They say it’s the last Song. 
They don’t Know us.you see
It’s only the last song
If we let it be.」

“これは最後の歌じゃない。
分かるでしょう?
私たちがそうさせない限り
最後の歌にはならないの”

【この映画を観て】

見て頂くと分かるように、ストーリーに関しては理不尽で救いようのないものとなっています。

セルマはなぜ処刑されなければならなかったのかという、悔しさのような感情を抱くほどです。
この映画を通して感じたのが、セルマのジーンに対する深い愛です。

母親というものは、自分の命を投げうってまで、息子を守りたいと思うものなのか、という、

自分の母親を含め、「母親」という偉大な存在について改めて考えさせられるきっかけとなりました。
残酷な物語ではありますが、こういった母親の子供に対するとても深い愛情について考えさせられる映画でもあり、自身の母親に対する尊敬や感謝も、今まで以上に持つことのできるような、そんな映画でもあります。

この映画の主人公セルマの、愛する息子のために命を奪い、命を投げ出す姿に月並みな言葉ですが、胸を打たれました。

この映画は映像を観ているだけで楽しめる要素もあります。
全体を通して映像が古いフィルムのビデオカメラで撮影されたようなレトロで味のある映像で、

編集もそこまでされている感じはなく、人がカメラを手で持ってそのまま撮っているかのような映像です。
随所でミュージカルのシーンがあるのですが、そういったシーン意外はBGMもほとんどなく、とても静かです。

流しているだけで様になるような雰囲気のある映画です。

特にミュージカルのシーンは圧巻で、その中でも印象深かったのがセルマが働いている工場でのシーンです。

急に全員がセルマを中心に踊り出し、ミュージカルが始まります。
Bjorkの歌声に思わず聴きとれてしまいました。

音楽も特徴的で、機械の音など、そういった音まで音楽のリズムとして取り入れていて、聴いていてとても楽しくなります。
ストーリーは鬱かもしれませんが、こういったミュージカルのシーンやBjorkの美しい歌声など、ぜひ聴いて、観て頂きたいポイントもあります。

この映画の魅力は映像、音楽も魅力のため、観て頂かないと分からないので、ここまで読んでいただきご興味を持たれた方はぜひこれを観て感じて下さい。

ショッキングなシーンもありますので、そこは自己責任で,,,。