今年5/24に封切りされ、異例のロングランヒットを続ける『プロメア』。
 個性的なキャラクターに色鮮やかなグラフィック、豪華な声優・製作陣、そしてトリガー作品ならではのアツい展開が話題を呼び、映画レビューアプリ「Filmarks」の「2019年映画満足度ランキング」では、邦画部門で2位にランクインするなど、快進撃を飛ばしています。
 今回の記事では、映画の中でも特に印象的なシーンでのキャラのセリフにスポットを当て考察していきます。

1. ガロとリオの出会い

1-1. ガロの消火シーンと口上「ガロ・ティモスさまだ!」

 プロメアの予告CMでもかなり使われたガロの登場シーン。
 歌舞伎の見得切りをオマージュしたあの独特のしゃべり方はかなり印象的ですよね。
 人を救うためにバーニングレスキューに入ったガロの正義の味方へのあこがれや、自分を鼓舞するためのパフォーマンスでもあるのかなと感じます。
 この冒頭のシーンだけでなく、ガロデリオンでフォーサイト財団に突撃するシーンやクレイとの対決でもたびたび見得を切るガロですが、唯一、見得を切らずに人命救助をするシーンがあります。
 瀕死のリオを助けるシーンです。
 あの場面だけは、パフォーマンスのことなど忘れて無我夢中でリオを助け、復活したリオに話しかけられてやっと我を取り戻したガロ。
 場面の緊迫感と、どれだけリオがガロにとってかけがえのない存在になっていたかが伝わる、隠れた描写となっています。

1-2. 「燃やさなければ生きていけない」「燃えていいのは魂だけだ!」

 炎を燃やすことが自らの生きる意味となっているリオと、火消しのガロ。
 このセリフは二人が初めて会った屋上火災で初めて交わした会話になりますが、冷静で淡々とした口調のリオが炎を操り、熱く叫ぶガロが消火をするというコントラストがとても面白いですよね。
 ちなみに、リオの姓フォーティアは古代ギリシャ語で「炎」を表し、ガロの姓ティモスは「魂」を意味する言葉。
 戦いの中での何気ない一言ですが、作り手の裏要素が込められた象徴的なセリフでもあります。

1-3. 「バーニッシュだって人間だ」洞窟でのシーンとガロの心境の変化

 たまたま遭遇したバーニッシュの難民キャンプに立ち会ったガロは、リオたちが抱えるバーニッシュの想いを聞き、衰弱していくシーマを目の当たりにすることで、これまで放火魔として対峙してきた自分の見解を改めていきます。
 「バーニッシュだって人間だ」「同じ人間なのに」とバーニッシュの人体実験・弾圧を繰り返すクレイを許せないリオの言葉が印象的なシーン。
 のちに、心を動かされたガロがクレイに向かって「バーニッシュだって人間だ」とこの時のリオとまったく同じセリフを言うようになります。

1-4. バラバラな二人が心を合わせる瞬間「バーニッシュの誇りを貫き通せ」

 クレイの過去を知り、地球崩壊をとめるべくデウスXマキナに乗り込みクレイのもとへ向かうシーンでガロがリオに伝えたセリフです。
 衝撃的な事実にショックを隠し切れないリオの気持ちを察するまでに心が近づいているガロ、「俺にもわからねえ、わかるのはそこに火があったら消すということだけだ。だからお前も貫き通せ。」というセリフには、バーニッシュを認め、力をあわせようというガロの覚悟が込められています。
 このシーンを境に、ふたりが呼吸を合わせマシンを動かしたり、相手の危機を救ったりするシーンが出てくるようになり、ガロのセリフはその象徴的な役割を担っています。

2. 英雄のベールを脱ぐクレイ

2-1. ガロを突き放す育ての親「旦那と呼ぶな!」

 誰からも尊敬される司政官として登場したクレイ。
 ガロも、子供だった自分の命を救ってくれたクレイに「アンタは俺の英雄です」と言っていましたが、そんなクレイがバーニッシュの人体実験場でその善人のベールを脱ぎガロを殴って「旦那と呼ぶな」「ずっと目障りだったんだよ」と吐き捨てます。
 かなりショッキングなシーンですが、この時ずっとクレイの左手が震えているのに気づきましたか?
 のちにバーニッシュであることを告白するクレイですが、その力が一番初めに発露した左手を抑え感情を必死に押し殺しているこのシーンは、二回目以降彼がバーニッシュとなったことを知ったうえで見ると鳥肌モノです。

2-2. 「私ならここだ」リオとの対峙、そして光る左手

 怒りに身を任せ暴走するリオに対峙するクレイ。
 クレイがバーニッシュの力を行使しようとする最初のシーンです。
 このシーンでもわかるように、リオは全身を怒りの炎で燃やしているのに対し、クレイは作中のどのシーンでも左手だけで炎を操っているのが印象的ですね。
 「自分も醜い突然変異だ」とバーニッシュである自分自身を憎み、発火を最小限にとどめているクレイ…こういったキャラの心情を細やかな描写で表現しているのがプロメアという映画の奥深さ、何度見ても面白いリピーターの多さにもつながっているんでしょうね。

2-3. 「救世主だよ、人類の」明かされる過去、そして再び始まる悲劇・パルナッソス計画

 
 「お前の世話をしたのは成り行きで、そのほうが世間のウケがよかったからな」「バーニングレスキューに入れたのもそこが一番死亡率の高い職場だったからだ」「必ず生きて帰ってくる、まったく目障りな馬鹿だ」
 クレイがバーニッシュを発動した過去、そしてガロへの憎悪を告白しガロを高所から突き落とし、「救世主だよ、人類の」と高らかに宣言します。
 ただ、本当にクレイはガロを憎んでいたのでしょうか。
 私は、ガロという人間そのものを憎んでいたのではなく、「バーニッシュである自分を嫌でも思い出してしまう対象」としてのガロに向き合わなければいけないことが苦しかったのではと想像しています。
 だから本当にこのときガロを殺そうとしたし、すべてを話した。
 そう考えると、誰よりも人間らしい感情で行動しているのはクレイなのでは?と感じるようになるから不思議ですよね。
 ヒールキャラでも人気ランキング上位になるのは、感情移入できるクレイの内面の描き方にもヒントがあるのかもしれません。

3. すべてを燃やし尽くすエンディング

3-1. 「俺は助けるぜ、リオも、地球も、アンタもな」

 個人的に一番好きなガロのセリフです。
 リオはクレイを殺したいほどに憎んでいましたが、ガロは感情の矛先をクレイにむけなかったことがわかる描写です。
 ここの「助ける」という言葉はイコール「信じる」でもあると思っていて、ガロはリオなら生き返ることも、地球が壊滅する前に自分の力でそれを止められることも、自分を殺したいと言ったクレイのなかに良心や正義があることも、すべてを信じたからこそパルナッソス計画の阻止、そして地球を救う消火を成し遂げられたのだと感じました。

3-2. リオが出した答え「乗ろう。今度はガロデリオンに!」

 まず最初にガロとリオが乗り込んだデウスXマキナにガロが改めてつけた名前は「リオデガロン」、もちろんふたりの名前からとっており「ガロデリオンにしなかった俺の奥ゆかしさをほめてくれよ」とガロは軽口をたたくのですが、最後に乗り込んだマシンに、今度はリオがその「ガロデリオン」と名前をつけ最後の戦いに向かうのが粋ですよね。
 形から入りたがるガロに少々呆れ気味だったそれまでのリオでは出なかったであろうセリフ、二人の絆の深まりを感じさせる名場面です。

3-3. 「燃えて消す」二つの意思がひとつになるとき

 バーニッシュであるリオの「すべてを燃やし尽くすという衝動」と、火消しのガロの「人を救って炎を消す」相反する二つの意思によって、地球を燃やし尽くし、消火します。
 燃やして消火というのは、解決方法としては一見意味が分からないのですが、『プロメア』という映画に一貫して描かれている「違うものを認める」というテーマを象徴しているのではと思います。

 『プロメア』は見れば見るほど、その裏テーマや描写の細かさに気づくことができる、深堀りが楽しい映画になっています。
 2020年2月には待望のBlu-rayも発売されますので、映画を見たときには拾えなかった要素やもう一度聞きたいセリフがあるかたはぜひBlu-rayでもう一度プロメポリスに会いに行きましょう。