ブロークバック・マウンテンのあらすじ考察1:これはマイノリティの映画?
一言では説明できない。それがブロークバック・マウンテン
この映画を簡単に説明してくださいと言われたら、多くの人は「セクシャル・マイノリティのカウボーイ映画」だと口にするでしょう。私もそうです。しかし本質がそうでないことは、作品を見た皆さんにはご理解いただけるかと思います。
監督や出演者も言っていますが、これはセクシャル・マイノリティのカウボーイ映画ではなく、普遍的な愛の物語なのです。これはこの映画を考えるうえで非常に重要で、根幹に関わることでもあります。愛に性別なんて関係ない。美しい言葉ですが、それがあくまで理想であるということをリアルに感じさせてくれるのが、このブロークバック・マウンテンではないでしょうか。
ブロークバック・マウンテンのあらすじ考察2:友情から愛へ変わる瞬間
なぜイニスとジャックは関係を持ったのか、明確には理由は作中に示されていませんよね。寒い夜だったから、というのはあくまできっかけであって、二人の心情の変化ははっきりと描かれていません。だからこそ、見る側の私たちがどのような捉え方をするかが鍵となってきます。
私たちの想像力次第で作品の中身が変化してくるのです。例えば、最初からジャックはイニスに気があった、または陽気なジャックにイニスが心を開いた、もしかしたら二人きりの空間で距離感がわからなくなったなど、様々な理由が想像できます。そのどれもが正しいと言えるでしょう。
人の行動すべてに説明はつきません。感情が変化する瞬間を自覚することはもちろん、人の感情の変化を逐一感じることは非常に難しいです。ゆえに、イニスとジャックの二人の関係、そして感情の変化には色々な理由を考えることができ、それがまたこの作品を面白くさせる要因ともなっています。
初対面でぎこちなかった二人に友情が芽生え、愛へと変わる瞬間、二人は何を考え何を感じていたのでしょう。もしかしたら単純に寒かっただけかもしれません。しかしあの夜、劇的でありながら静かな二人の変化があったからこそ、二人の人生は悲しくも輝かしいものになるのです。
ブロークバック・マウンテンのあらすじ考察3:美しくも冷たい景色と、陽気で悲しい音楽
鮮やかな山なみと色あせた町
二人にとっての聖地とも呼べる場所はブロークバック・マウンテンです。二人で過ごしたのはごく僅かな時間だったにも関わらず、二人を繋ぐ唯一の場所であり、二人が何よりも大事にする思い出です。それを強調するように、二人が過ごしている間のブロークバック・マウンテンは色鮮やかに描かれています。青々とした木々や草、二人が囲む火は暖かさを灯し、着古した二人の服でさえ魅力的に見せていました。まさにイニスとジャックにとっての桃源郷。
山を下りてしまうとどうでしょう。二人の生活や運命を指し示すように、町は色あせて見えます。特にイニスの生活する町は灰色一色と言ってもいいような雰囲気です。しかし山と比較すれば色のない町で、ただ一つ鮮やかな部分がありました。そう、二人が再会したシーンです。あの情熱的なキスは灰色の町の中でひっそりと行われたにも関わらず私たちの目には色鮮やかに映ります。二人がいるだけで美しい。そう見えるのは私だけかも知れません。でもそうさせる何かがあの二人にはあるのです。
陽気であるほど切なくなるBGM
ギターの音色と美しい自然の景色を見るだけで涙が出てくる。私がそうなってしまったのは、間違いなくこの作品が原因です。美しく流れるようなギターのメロディと悠々と広がる山の景色というのは、この作品の代名詞でもあります。そこから何を感じるのは人それぞれだと思いますが、私はまさにイニスとジャックを表しているように思えました。美しくて綺麗なのにどこか寂しさを感じる……曲を聴くだけで二人の思い出が蘇ってくるようです。
作中では陽気な曲も使われていますね。この映画を知らない人が聴いても楽しくなれるような曲です。私にはそれが逆に切なくなりました。なぜなら陽気な曲であればあるほど、イニスがジャックの居ない寂しさを紛らわせているように思えて仕方ないからです。ジャックが言うように、一緒になること以外であの二人が幸せになる道はないのです。それができないことを、陽気なBGMたちがまざまざと感じさせてくれます。
ブロークバック・マウンテンのあらすじ考察4:イニスの愛とジャックの愛
追いかけるのがジャックの愛
ジャックは常にイニスを求めていました。来年もブロークバック・マウンテンに来るか尋ねたり、再会のハガキを出したり、二人で牧場をやらないかと持ちかけたり、イニスの離婚を聞いたときは嬉々として車を走らせていましたね。何度イニスに断られてもジャックは諦めず、そして無理強いもしませんでした。それこそが彼の愛と言ってもいいでしょう。献身的と言えば聞こえはいいですが、結局その愛が彼の望む形で実を結ぶことはありませんでした。
彼の死に関しては二つの事実があります。一つ目はラリーンが言ったように不慮の事故で命を落とした。二つ目はイニスが想像してしまったような暴力で命を落とした。彼が死んだ事実に変わりはありませんが、せめてジャックがイニスとの関係を後悔しない最期であったことを願いたいものです。
拒絶するのがイニスの愛
家庭を大事にしつつもジャックとの関係を続けていたイニス。ジャックもそうですが、妻の立場で考えれば最低の夫です。相手の性別に関係なく、妻というものがありながら浮気をしていたのですから。最終的にイニスが家庭もジャックも無くしてしまったのは因果応報という考え方もできます。
そんなイニスですが、少なくともジャックに好意はあったはずです。でなければこんなに関係を続かせるわけがありません。にも関わらずイニスはジャックからの好意を拒否し続けていました。もちろん、幼少期のトラウマが原因というのは大いにあるでしょう。イニスがジャックの愛を受け入れたのは最後の最後、彼が今は亡きジャックに永遠を誓ったときです。
こうして考えてみると、イニスは割とひどい男ですね。でもそれがイニスの愛なのでしょう。ジャックを拒絶しつつも彼を手放したくなかった彼の感情は執着に近いものがあります。そうすることでしかジャックとの関係を続けていけなかったのでしょうね。何とも不器用な男です、イニス・デル・マー。
ブロークバック・マウンテンのあらすじ考察まとめ
この映画の登場人物は決して多くありません。なのでそれぞれの立場になって映画を見れば、また違った見方をすることができるでしょう。イニスやジャックの立場で見てみるのはもちろん、アルマやラリーンの立場で見てみると、夫の身勝手さに苛立つかもしれません。子どもの立場であれば、父親であるということの大変さを感じることもあるでしょう。
イニスとジャックの愛は、社会的に見れば許されるものではなかったかもしれません。それは当時の同性愛に対する考え方であったり、家庭を持ちながら妻以外の人間と関係を持つことだったり……。それでも彼らの愛が美しく見えてしまうのは、彼らが不器用ながらも愛という存在を信じていたからに他なりません。
愛というものは美しい。私がこの作品に惹かれる大きな理由の一つでもあります。性別も年齢も生まれた時代も関係ない。ブロークバック・マウンテンは普遍的な愛の物語だと監督や出演者は言っていますが、本当にそうだと思います。愛というのは理想と現実に打ちのめされながらも最後まで輝くもの。理想論でもいいじゃないですか。その理想を現実にするのがまさしく愛の力なんですから。
参考になるサイト
さらにブロークバック・マウンテンについて詳しく知りたい人は、以下のサイトなどをご参考ください。