007シリーズ第24作、ダニエル・クレイグ主演(もちろん、ジェームズ・ボンド役)の第4弾として作られたのが当作品『007 スペクター』(2015年)です。
「スペクター」というのは、世界征服を狙う悪の組織。オールドファンにとっては、懐かしい仇敵の登場です。
このスペクターの首領・プロフェルド(以前は「No.1」というコードネーム)とボンドの確執を軸に、現代の諜報戦を見事に描いた当作品は、今後の「007」作品に風を吹き込んだとも言えます!
『007 スペクター』のネタバレあらすじと見どころ① -敵の正体が宿敵・スペクターと知る!-
前Mの遺言
「死者の日」でにぎわうメキシコ・シティ。骸骨のマスクで素性を隠した男女が、アバンチュールを楽しむ姿が、街中や高級ホテル内にもチラホラと見えます。
その一組がホテルの部屋に入り仮面を外すと、男はMI6(英国情報部海外担当部署)所属で、殺人許可証を持つ00(ダブルオー)セクションの007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)でした。
前作『007 スカイフォール』(2012年)で殉死した前任のM(ジュディ・デンチ。MはMI6の責任者の呼称)が遺言としてボンドの自宅に生前に送っておいたVTRが事の発端でした。
曰く
「メキシコで『死者の日』に爆弾テロが計画されている。実行犯のスキアラ(アレクサンドロ・クレモア)を殺して葬儀にも出席せよ」
という旨のメッセージです。
ボンドはこの指令を内密に処理するために、メキシコに潜入。美女とホテルに入るも「ちょっと仕事が。すぐ戻る」と言い残して、窓から壁伝いにスキアラのいるビルを狙撃できるポイントに移動しました。
そして、爆弾を用意しているスキアラたちを狙いますが、相手グループに発見されてしまいます。そればかりか、爆弾が入ったスーツケースが被弾して大爆発を引き起こしてしまいました。
この爆発で建物自体が原形を保ったまま、ボンドに崩れかけてきます。そこで、間一髪の大ジャンプで、難を逃れたのでした。
この冒頭から間もないシーンが、実はクレイグ・ボンド作品の“隠れテーマ”だと筆者は睨んでいるんですよ。つまり、ハイテク機器よりも“人間力”の見直しを描きたかったのではないかと、思うんですよね。
何故かというと、それまで筆者の中では「スーパーヒーローの代名詞」だった007号(=ジェームズ・ボンド)が“時代に撮り残された男”や“ロートル”として描かれる場面が度々あったからです。
そうした状況を裏付けるように、今作では「C(MI5=英国情報部国内担当部署の責任者)」が執拗なまでに、MI6とMI5との統合を計り、00セクション不要論を声高に推し進めています。
さらに前作から就任した若き新「Q(ベン・ウィショー、MI6武器開発担当)」は、ボンドに総部品を渡す際に「今でき『万年筆が爆弾に早変わり』、なんてのはナシですから」と、蔑んだ目でボンドを見たり…。
かくいうボンドも、自分から諜報の最前線から身を隠してみたりと、弱気な部分を見せたりもしていましたっけ。
そうしたボンド像から、一気に「スーパーヒーロー」に戻してくれたのが、メキシコでの“大ジャンプ”なのではないかと筆者は分析したのです。
多分、同じ思いを持ったショーン・コネリーからのボンドファンも多かったのではないでしょうか。
いくらハイテク機器が発達しても、“エージェント個人の持つ身体能力や危機回避能力、知能が秀でていなければ超一流のスパイには成り得ない”という事と勝手に解釈しました。
観終わってみれば、その説が正しかった事が分かるはずです。
結果としては、このメキシコでの爆発から死を免れたスキアラでしたが、ボンドに追われてヘリごと爆死します。その時にボンドはスキアラの指環の(タコの)紋様が気になって、それを抜き取って自分は大惨事から脱出したのでした。
謹慎処分中のボンドがローマの葬儀、そしてスペクターの会議に潜入!
ロンドンに帰ったボンドを待ち受けていたのは、非公式任務のうえに多大な被害を与えた件でM(レイフ・ファインズ)から無期限の謹慎を言い渡されます。
メキシコに赴いた理由も顛末についても口を閉ざしていたのですから、これは寛大な処分と言ってもいいでしょうね。
その時に、「こいつの分析を頼む」とスキアラの指環をQに託してボンドは処分にしたがったのでした。
おりしも英国情報部内ではCが情報部統合に向けての勢力が拡大している真っ最中です。ボンドを信頼しているMやQ(前作『スカイフォール』後半から、ボンドの実力を認めている)も、表立っては助けられなかったのでした。
ただし、MI6で信頼のおけるMの秘書のマネ―ペニー(ナオミ・ハリス)には、自宅に前作で焼けたスカイフォール(ボンドの生家)の遺品を届けに来た時にメキシコの事情と前Mの遺言についてを明かしています。
この遺品の中のひとつ、なかば焼失しかけた一葉の写真がのちに重要性を帯びてきます(後述します)。
この美女・マネーペニーはもともと、ボンドの相棒として現場で活動してきた仲であり、今作でも情報の収集などのフォローを積極的にしていくのでした。
Qの方でも、ボンドを監視するために血中にチップを打ち込むのを命じられます。そのチップがGPSとなって、ボンドの居場所を常に特定するという意図の元からです。
ですが、「起動には24時間、いや48時間かかる」と暗に、残された時間を匂わせました。
そうした数少ない協力者を得たボンドは、前Mの遺言に従って今度はスキアラの葬儀のためにローマへと向かったのでした。
葬儀で保険屋になりすましたボンドは、スキアラ夫人のルチア(モニカ・ベルッチ)に接触する事に成功します。
そのルチアは口封じのために、組織(=スペクター)に命を狙われますがボンドに救われた事から、「夫の後任の殺し屋を決める会議が開かれる」という情報をもらいました。
ボンドの旧知のCIAのフェリックス・ライターに手紙を添えて「これを米国大使館に持っていけば、アメリカへ逃げられるから」と、ルチアの身を保証します。ちなみに、ライター氏の出番はなく、このシーンでは名前が挙がっただけです。
ボンドは組織の名を「スペクター」とルチアから聞いて驚愕するとともに、指環の紋様の謎が解けたのでした。
以前も、同じ紋様をした指環をしていた人物を知っていたからです。ここまで記せば、お分かりの通りスペクターの幹部なんですけどね。
この会議でボンドはスペクターの首領であるフランツ・オーベルハウザー=プロフェルド( クリストフ・ヴァルツ)と再会を果たしました。
顔なじみと言ってもいいプロフェルドに潜入がばれて、会場を逃げ出すボンドをスキアラの後任に就任したばかりのヒンクス(デビッド・バウティスタ)が追いつめます。その窮地をなんとか逃げ切ったボンドは、スペクターの狙いを探るために元スペクターの殺し屋のミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)に会いに行くのでした。
『007 スペクター』のネタバレあらすじと見どころ② -世界の情報を支配しようとするスペクターの野望-
いよいよ最終決戦が近づいてきた
ボンドはミスター・ホワイトに単独で会いに行きますが、尋ねた山荘には死を目前に控えた“衰えた元殺し屋”がいただけでした。
年齢的な衰えも当然ありますが、プロフェルドの非情な手口に嫌気がさして、反旗を振りかざそうとして逆に毒を盛られてしまったのです。
静かに独り終末を待つホワイトとボンドは、かつては敵対する組織の一員同士として闘ってきた間柄でした。そのホワイトにスペクターの企みを尋ねたボンドは、「娘を守ってくれ」という条件で『アメリカン』という言葉を残して自害してしまいました。
ホワイトの娘のマドレーヌ(レア・セドゥ)は、オーストリアの山岳地帯で医師として暗殺の世界とは無縁な暮らしを送っていましたが、スペクターに誘拐されそうになります。
「娘を守る」と約束したボンドは、マドレーヌを救出するとともに『アメリカン』の手掛かりを聞く事になります。
その『アメリカン』とは、ホワイトが利用していたモロッコのホテルの名だったのです。
そのホテルで調査したボンドとマドレーヌは、いつも使っていた部屋に隠し部屋があるのを見つけます。そこにあった古びたコンピュータを起動させるとスペクターの基地と思われる場所の座標が!
そこはアフリカの砂漠の真ん中にある場所で、衛星写真では察知できなしように、カムフラージュされたクレーター状のモノでした。
スペクターの真意と基地の全貌を知るために、ボンドとマドレーヌはアフリカへ向かいます。途中、ヒンクスの攻撃にあいながらも無人駅に辿り着くと、そこにスペクターの迎えのクルマがやって来たのでした。
敵方の基地に案内(または拉致)されるというのは、007作品ではお決まりのパターンです。
007通にとっては、「いよいよ最終決戦が近づいてきた」事を意味するシーンなのです。
スペクターのメンバーだった「C」!
その頃、諜報戦の表舞台ではMI5のCが英国内だけではなく各国の情報機関に君臨すべく活発に動いていました。
国内では、MI6を統合という名の配下に置く事と00セクションの廃止を推進して行きます。
国際舞台では、世界的なテロ活動等のボーダーレス化した犯罪に対処するための、有力国の情報を共有する情報監視システム案「ナイン・アイズ」を確立させるために躍起になっていました。
ところが、実際にはナイン・アイズに集約された情報はすべてスペクターに流れる仕組みになっているのでした。Cもスペクターの一員だったのです!
筆者が推察するに、冒頭のメキシコでの爆破未遂もスペクターがナイン・アイズの必要性を訴えるための行った所業だと思うのですが…。
プロフェルドとボンド
「ナイン・アイズ」の監視システムを牛耳って世界の情報を完全操作を目論む事を基地内で得々とボンドに演説するプロフェルド。
この作戦が成功すると、全世界の情報はスペクターのものになってしまうのです!
そして、続けて彼の口からはボンドにとっては衝撃的な内容の話しが飛び出したのでした。
ボンドは幼少の頃、両親を事故で亡くしました。以来、養父母のもとで育てられたのですが、その家族で実の兄弟同然に育てられたのがフランツ・オーベルハウザーでした。
彼はスポーツでも座学でも、何をやらせても優秀で、養父母から寵愛を受けていました。その才能に嫉妬したフランツは、雪崩事故に見せかけて実父を殺して自分も死んだ事にして名を変えて生きます。それがスペクターの首領・プロフェルドだったのです!!
ペニーマネーがスカイフォールから持ってきた遺品の一葉は、オーベルハウザー一家とンボンドが“家族”として写っていたのです。
007シリーズの特徴として、悪役が延々と事の真相を喋り続けて観客に“ストーリーの整理をさせてくれる”というシーンも、先述した「基地を案内する」と並んでしばしばあります。
このシーンが、まさにその場面でしたね。全編148分と長丁場で、よほどのマニアでないと「ダレる」ところに、程よくエスプリを効かせる事に成功していました。
その基地内で気絶させられて拘束されたボンドは、Qからの支給装備の爆弾腕時計で危機を脱出。基地の破壊も成し遂げます。
ロンドンに戻ると、M、マネーペニー、Q、MI6のタナ―(ロり―・キニア)とともにプロフェルドを追い詰めました。そして、ナイン・アイズがスペクターの手に落ちる前に何とか食い止めます。
その後は、ヘリで逃げるプロフェルドをボンドは河川上の船からエンジンを射撃。プロフェルドのヘリは墜落します。
これにてCの野望は終焉を迎えるわけですが、MI6が諜報の世界で中心なのかは置いておいても超人的な働きをするエージェントの必要性が証明されたわけです。
クレイグ4部作(最新作も出演するとは思わなかったのでw)をきっかけに、これからのボンドを「ロートル扱い」するのは、止めてもらいたいと筆者は切望します!
クレイグ・ボンドの集大成かと思いきや…
繋がったストーリー、去るボンド
墜落したヘリから這い出したプロフェルドをボンドは射殺するかに見えました。
しかし、MI6の仲間の見守る中、ボンドはプロフェルドの身柄はMに任せてQの手によって完全復活した新品同様のアストン・マーチンDB5でロンドンの街を去って行ったのでした。ナビ・シートにはマドレーヌを伴って、です。
このヘリ墜落シーンを見てみると、プロフェルドは右目と顔面右半分を負傷。この傷跡は『007は2度死ぬ』(1967年)にもあり、初期設定の「ペルシャ猫を膝上に抱く男」も今作では基地内で見せたりしています。
時系列では、その辺りのエピソードになるわけですが原作と映画化の順序がバラバラなために、その点は「ご愛敬」になっています。
ただし、『007 ダイヤモンドは永遠に』(1971年)以来(権利問題で使えなかったため)、久々の巨大悪・スペクターの登場には期待感しかありません。
ロジャー・ムーア時代までならば、米ソ冷戦に絡む独立した組織として十分に機能していたスペクター。現代での役割りにも注目です。
ボンドは復帰する!
次回作『007 ノータイム・トゥ・ダイ』(20204月公開予定)では、4作品出演が既定路線だったダニエル・クレイグがまさかの続投をします。
MもQもマネーペニーも同キャストです。
これには期待しないではいられません。
また、この作品のエンドロールのラスト・メッセージには、
JAMES BOND WILL RETUN
の文字が!
この言葉をもって、当記事も締めたいと思います。